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大きく変わる金融機関の融資~金融庁が貸し出しを後押し~

はじめに

親方日の丸企業を別にすれば、かつては何があっても倒産しないと思われてきたのが、金融機関です。それが、バブル破綻や国際化の嵐のなかで、1997年の拓銀や山一証券の破綻に続いて、りそな、足利などの銀行が事実上倒産しました。その後は、政府の監督が強化されたことに加えて、統廃合が進んだこともあり、最近では、こういった不安はほとんどないまま、今に至っています。
ところが、ここにきて、金融機関を取り巻く環境は、その時以来、いやこの先を見据えた場合、それ以上のかつてないほど厳しいものになっています。これに伴って、我々、中小企業に対する融資の姿勢も変化してきています。
今日は、こうした金融機関をめぐる最近の事情について考えます。
<本稿は2017年2月9日に開催された、第45回・東葛地区理美容セミナーでの講演録に加筆したものです。>

 

171106_03_01毎日のように金融機関に関するニュースが載っている

 

これまでの金融検査と区分

記憶のいい方は、かつては都市銀行といわれる大手の銀行が13行あったということを、覚えておられるかと思います。それが拓銀の破綻などを経て、今は3つのメガバンクになりました。皆さんご存知の三菱東京UFJ、みずほ、三井住友の3グループです。これに続く4番手が、旧埼玉銀行を中心とする、りそなグループですね。
これらは金融機関のなかで、政府の強い後押しで、今のような3メガバンク体制になったのですが、この過程で指導監督する国の側の体制も変わりました。なれ合い、癒着などで何かと批判の多かった大蔵省が、財務省と金融庁(発足時は金融監督庁)に分離され、今に至っています。
これまでは、この金融庁が強い監督権限を発揮して、金融機関への検査などを通して主に
不良債権退治とも言うべき「指導」を行ってきました。
では、金融庁が融資先を測る基準や評価は、どのようにやってきたのか、これまでの金融検査マニュアルに沿ってごく簡単に説明しましょう。

 

まず、金融機関は貸し出し先を、返済状況などから以下の4区分・6段階に債務者区分をしています。このうち「③要管」以下については、万一の貸し倒れに備えて、引当金を積まねばなりません。引当金というのは、資本・負債勘定ですが、その対をなす相手勘定は償却つまり損金です。

 

171106_03_02下ほど銀行は引当金を積まなければならない

 

あの「半沢直樹」も変わる

少し簿記の話になりますが、わかりやすく説明しますのでお付き合い下さい。仮に、金融機関が「③要管」として引当金50%としていたものを、「これでは甘すぎる。実質的には破綻しているのだから、⑤実質破綻先として100%にしろ」と、金融庁から指摘され、それに従ったとします。この企業への融資残高が1億円とした場合、金融機関は当初の5,000万円から1億円に引当金つまり損金を増額計上しなければならないことになります。もし、この金融機関のそれまでの収益が3,000万円の黒字だったとすると、この評価替えで2,000万円の赤字に転落するということになります。
これだけだと、金融機関が甘く査定して、赤字に転落するのを防いでいたように思われそうですが、そう単純ではありません。金融機関、とりわけ地元の中小企業に根を張っていて、それこそ家族構成まで知っている信金・信組などは、数字に出てこない、経営者の信用や人柄さらには親戚のバックアップ力なども掴んでいます。ですから数字中心の金融検査より、総じて「甘い」評価が出やすかったのは事実ですが、これ自体、間違いでもごまかしでもなかったのです。
4年前、TBS系列で放映された人気ドラマ「半沢直樹」は、銀行の融資実態や人間模様を描いたものですが、ここでの肝(きも)は金融庁検査だったのだと言ったら、納得していただけるでしょうか。
この金融庁検査に象徴される政府の金融行政、とりわけ融資スタンスが今、大きく変化しつつあります。そのことをお話しましょう。
今、長引く不況のなかで、特に地方の商店街などでは「シャッター通り」などと言われる閑古鳥が鳴く地域も増えています。人口減少や製造業の海外移転などが、背景にあります。
こうしたなかで、金融庁はこれまでの検査マニュアルを改めて、思い切って融資に道を開く方向に舵を取りつつあります。かつては、不良債権のあぶり出しが、業務の中心かのように思われて、「金融処分庁」とまで言われてきた金融庁ですが、一昔前からすると様替わりです。時には、中小企業へのアンケートを実施して、いつまでも担保や保証人がないから融資をしないなどと、貸し渋りを続けているようではダメだとばかり、金融機関にハッパをかけているのです。それだけでは、ありません。創業支援融資を促進しようと、これまでは、ややもすると融資対象から遠いとされてきた女性、30歳未満の若者、さらには55歳以上のシニア層への融資に力を入れるようにと、求めているのです。

保全優先から「事業性」評価へ

かつての融資は、何といっても万一に備えての保全が最優先でした。このためには、まず担保、次が保証人でした。しかも、担保は地価の7割の評価、保証人は身内ではなく、債務者と同等以上の資力のある第3者、それも抗弁権のない連帯保証人といった具合です。そんな担保余力やアカの他人に保証人が頼めるような人は、そもそもお金に困ってない人ですが、かつてはこれが現実だったのです。
もちろん、これまでにもマル経(経営改善貸付)や安定化資金といった、無担保(無保証人)融資も一部にはありましたが、大半が保全第一の壁にはばまれてきたことは、中小企業経営者の皆さん自身が良くご存知の通りです。
それでも近年は、決算書の数字を重視する「定量的評価」から、代表者自身の人柄や事業の内容を評価する「定性的評価」にその比重を移してきました。この度の金融庁の方針転換は、今の財務内容が少々芳しくなくても、将来性があるなら融資するという「事業性評価」にシフトせよ、ということなのです。様変わりといった意味がお分かりいただけるかと思います。

改革を迫られる地方銀行

こうしたなかでも、今、最も厳しい状況下にあって変革を迫られているのが、地方銀行です。地銀は規模の大きいメガバンクと地域密着の信金・信組に挟まれて変革を求められています。この地銀には以前から、いわば「地域大名」のように君臨してきた地銀と「第2地銀」があります。
かつて、日本中に〇〇相互銀行という無尽(頼母子講)から発展した銀行がありました。皆さんも、ご記憶にあると思います。この相互銀行は、大名銀行と信金・信組に挟まれて、「サンドイッチ銀行」などと呼ばれました。一時は構造不況業種の一つにも挙げられたりもしましたが、その後の統廃合などを経て、「第2地銀」として甦(よみがえ)りました。この東葛地区とのかかわりで言えば、第1地銀が千葉銀行、第2地銀が京葉銀行などですね。
今はさながら、大名銀行のサンドイッチ銀行化が進みつつある、といったところでしょうか。かつては、その地方の名門企業でもあったのですから、様変わりです。
そして、この地銀が合併や再編の渦中にあることは、最近の新聞報道などでご存知のことと思います。関東地方に限っても、横浜銀行と東日本銀行、常陽銀行と足利HD,都民銀行と八千代銀行に破綻した新銀行東京が加わる、といったあたりです。
金融庁が、昨年2016年秋に試算した地銀の収益見込みによれば、8年後の2025年には6割の地銀が本業赤字に転落するとしています。何しろ今でも、4割が本業赤字のなかで、予防的措置も含めて、思い切った生き残りを図るように求めているのです。
なかには、これといった融資先に乏しい地方から、都内に進出して県人会などを通じての融資の働きかけを図ったりしている地銀もあります。また、ある地銀は、県人会人脈ではカバーできないと、帝国データバンクの評点が45点以上のところを手当たり次第あたったりもしています。このようにして、合併や連携だけではなく、生き残りに必死なのです。
金融機関の先行きが不透明なのは、もちろん地銀に限った話ではありません。旧来型のスタイルが少しずつ見離されつつあるのかもしれません。
1回の送金手数料が、年間の預金利息を上回るといった「非常識」に対抗するかのように、インターネットバンキングやスマートフォンを使った利便性も進化しつつあります。また、決算書や登記簿謄本など一切不要で、専ら取引内容だけで即日判断し、融資するといった超スピードローンを楽天などは、既にスタートさせています。
これまで、専ら過去データ、それも対税務署、対金融機関用に手を加えた決算書をあれこれ分析して、融資の可否を判断するというモデルだけでは、時代遅れになってきたということに、官(金融庁)、民(金融機関)が気付いてきたともいえます。
さらに言えば、「黒田バズーカ」なるシャブ漬けともいえる日銀による資金投入が、国債や株を中心に実施されてきましたが、周知の通り目に見える形での効果は出ていません。金融庁はこうしたなかで、直接地方に融資を通じて資金を流すことで、活性化を図ろうという狙いもあります。
こうしたなか、都内に本店を置く第一勧業信用組合が、地方の信組とも連携して、東京と地方の間で、人やお金の流れを作る取り組みをしています。第一勧信は農業支援などでも、日本政策金融公庫(旧国民公庫など)と連携しています。何度か新聞などでも紹介されましたので、知っているという人もいるかと思います。
金融機関の窓口で、慣れない保険商品を販売して、後でトラブルを抱え込んで信用を失墜するよりは、よほど注目していい動きだと思います。

ネットバンキングの現状

この機会ですので、インターネットバンキングについても少し触れておきます。
最近は金融とIT技術が融合した「フィンテック」とかAI(人工知能)、ビットコイン(仮想通貨)といった横文字がやたらと多用されるようになっています。大げさな横文字やカタカナ言葉を引用するか否かはともかく、今や世界中でインターネットを通じた格安で便利な電子決済が普及しています。自分のことで少し紹介しましょう。
私も小さな会社をやっていますが、ネット銀行にもいくつか口座を持っています。それぞれ支店名はありますが、もとより実店舗でないバーチャル(仮想)店舗ですので、もちろん行ったことはありません。
外国為替による送金も、最近はほぼ毎週していますが、今はこのネットバンキングを利用しています。1回の送金手数料は2,000円と割安ですし、何より時間がかかりません。内国為替つまり国内送金でも、もちろん利用していますが、窓口よりは総じて送料も安いですし、こちらも待ち時間がかかりませんね。
皆さんのなかでネット送金しているという人でも、どこかの支店に口座を持っておられますね。しかも、それは自分の職場の近くか、住まいの近くのリアル(実在)店舗がほとんどだと思います。
これもネットやスマホを使えば、一度も支店に行くことなく取引できますし、支店に口座がなくても取引できるということが、より普通のことになる時代に入りつつあると思います。
金融というと、堅苦しいとか難しいと言われがちです。しかし、経営者にとって金融は経済の血液といえるほど重要です。こうした流れを知ることで、より借りやすく、返しやすくなるかもしれません。

 

今回は、万一延滞した時の対応や経営者保証といった、いわば出口の部分についてはお話できませんでした。もとより、いくら貸し出しの流れが勢いを増してきたといっても、借りるだけでなく、きちんと返すことも重要です。これについては、他日を期したいと思います。

 

著者・経歴
株式会社ハートシステム 代表取締役
研修セミナー講師・ジャーナリスト他
坂内 正