担当していた患者さんが亡くなると、悲しみをどう整理していいか分からない。そんな葛藤を抱える看護師さんのための、悲しみケアについて考えてみましょう。
プロフェッショナル・グリーフとは?
家族や大切な人を亡くしたときの悲しみを「グリーフ」と言います。近年では、病気などで大切な人を失った遺族に寄り添い支援することを「グリーフ・ケア」と呼び、看護師や介護士などにこの役割が求められています。
しかし、担当していた患者さんが亡くなったとき、悲しみや喪失感に襲われるのは看護師も同じこと。
でも看護師や介護士、医師といった立場の人に対しては、そういった悲しみにフタをして日々の仕事をこなすことが求められがちです。
「家族の悲しみを思うと泣いてはいられない」「患者さんの数が多く、個々の死に向き合う余裕がない」といった現実もあるでしょう。
しかし、患者さんを亡くした悲しみ、喪失感、罪悪感などがいつのまにか積み重なった末に、うつを発症したり、休職、退職に至ってしまう看護師さんも少なくありません。
そこで近年、こうしたプロフェッショナルの立場の人の悲しみ「プロフェッショナル・グリーフ」のケアが重要視されつつあります。
看護師Aさんの例
ある看護師Aさんも、患者さんの死に対する気持ちの整理に悩む一人。
新人の頃、担当していた悪性腫瘍の患者さんが亡くなってしまったときは、患者さんへの思い入れもあり、とても動揺して涙が止まらなくなってしまいました。さっきまで生きていた患者さんが呼吸をやめてしまったことがショックでなりませんでした。
しかし、ご家族の悲しみを考えると、自分が泣いてはいられない。先輩ナースのように、死をきちんと受け入れ、冷静に死後の処置をしなければならない。
そんな思いで日々の仕事をこなし、その後も何人もの死を経験しました。
でもそんな中、死への悲しみと、それを切り替えなければいけないという責任感の狭間で、気持ちがとても疲れていると感じるようになりました。仕事から逃れて何もしたくない気分になることも増え、自分がうつの入り口にいるのでは…と不安になることもあるそうです。
看護師の悲しみをケアするために大切なこと
Aさんと似たような思いをもつ看護師さんも多いのではないでしょうか。
そんな「プロフェッショナル・グリーフ」をケアするためには、以下のようなことが大切と言えそうです。
◎看護師も悲しくて当然と考える
患者さんの死がショックなのは当然。看護師だから悲しんではいけないということはありません。気持ちを抑え込まず、泣きたいときは泣きましょう。患者さんも最期をあなたに懸命に支えてもらえて嬉しかったはずです。
◎「死」に慣れようと思わない
動揺せず冷静に仕事をこなすために「死」に慣れなければいけないのかと葛藤する看護師さんもいますが、無理にそう思う必要はありません。死に慣れるのでなく「死を受け入れる」と考え、ゆっくりそのことを受け止めましょう。
◎自分の悲しみを認識する
プロフェッショナル・グリーフの特徴としては、本人がその悲しみに気づく余裕がなかったり、時間がたってから悲しみが表面化するということもあります。知らぬ間に悲しみが蓄積しないよう、自分の心をいたわることも大切です。
◎専門家・カウンセラーに相談する
気持ちの整理ができないときや、だるさや鬱屈感など不調を感じるときは、心療内科などのカウンセリングを気軽に受けるのも良い方法です。気持ちを話すだけでなく、専門家による療法で自分の心の状態を客観的に見ることができるでしょう。
まずは自分の気持ちをいたわることが大切
看護師として日々、命に向き合う仕事をしていると、そのつど悲しみに向き合わないほうが自分にとっても楽と感じる人もいるでしょう。悲しくならないように、患者さんとは親しくなりたくないという看護師さんも中にはいると思います。
それでもまずは、「死が身近な場所で頑張っている自分」を認めてあげることが大切。悲しみを受け入れることで、今後の仕事にも優しい気持ちで取り組めるようになるかもしれません。
心身に不調をきたし、看護師の仕事が続けられなくなる前に、自分の悲しみもいたわってあげるようにしたいですね。
参考(グリーフケアについて):「日本グリーフケア協会」
http://www.grief-care.org/care.html