介護現場に外国人スタッフが増えるなか、訪問介護を外国人が行うことが可能になりました。それをとりまく課題や、さまざまな意見を見てみましょう。
多くの外国人介護スタッフが活躍中
現在、介護の現場では外国人のスタッフが増えつつあります。
特にフィリピン、インドネシア、ベトナムからのスタッフが多く、これは「経済連携協定(EPA)」によるものです。
EPAとは、日本と外国の経済関係の強化を目的とした協定で、関税の撤廃などのほか、東南アジアからの働き手の受け入れも進められています。
その一環として、2008年度から外国人の介護福祉士候補者の受け入れが始まり、経験を積んだ多くの外国人スタッフが介護の資格を取得して活躍しています。
訪問介護が「解禁」になり…
外国人スタッフはこれまで、担当できるのは施設での介護のみで、利用者の自宅での訪問介護はできないことになっていました。
施設では他の日本人スタッフと一緒に働けますが、訪問介護の場合は一人で利用者の自宅を訪れることになり、利用者との日本語でのコミュニケーションや生活様式の理解が難しいとされていたためです。
しかし厚生労働省は、2016年2月、東南アジアから来日した介護福祉士が訪問介護の場でも働くことを認める方針を示しました。訪問介護でも外国人スタッフが「解禁」されたということです。
これには現場やその他からも賛否両論が起こっています。
いったいどんな意見があるのか見ていきましょう。
人材不足は解消しない?
日本の介護現場では今、深刻な人手不足が問題になっています。
これから増えていくであろう訪問介護においてもそれは大きな悩みで、東南アジアからの人材はその助力となるという期待がありました。
しかし、現場では「外国人の受け入れでは人材不足は解消しない」という意見も多いようです。
その背景には、介護職の待遇自体に改善の必要があることや、外国人スタッフの定着が難しいこと等があるようです。
EPAで来日する外国人スタッフは、もともと数年働いたら帰るつもりという人も少なくありません。また、日本でずっと働きたいと思っても、家族を日本に呼ぶのが難しかったり、家族が日本になじめない等の理由で帰国する人も多いのです。
ここには、EPAで人事交流を活発にしたい政府の意図と、スタッフを定着させたい介護現場とのギャップが見られます。
また、「外国人の受け入れよりも、離職した日本人スタッフが戻ってくるような、待遇の改善が先決」という意見もあります。
むしろ外国人は訪問介護向き?
その一方で、外国人スタッフは施設での介護より訪問介護の方が向いているのでは? とする調査もあります。
外国人ヘルパーと介護事業所に対して大学が行ったある調査では、外国人ヘルパー自身が「自分には施設より訪問介護のほうが合っている」と答えた結果が出ています。
理由としては、施設では日本人スタッフとの人間関係に軋轢があることや、誰の指示に従えばいいのかという指令系統が不明確なことが挙げられています。
研修や実践を積み、技術には問題のない外国人スタッフにとっては、施設やその人間関係によっては訪問介護のほうがスムーズに働けるのかもしれません。
個々の現状の把握が大切
訪問介護の場での大きな課題は、コミュニケーション能力や緊急時の対応力。これらは、研修を通じた指導の強化が必要とされています。
外国人への研修時間を増やす場合は、その分現場の負担が増えることも懸念されています。
実際の介護現場では、
「うちの施設の外国人スタッフは、誰よりも仕事が丁寧」
「高齢者を敬う気持ちなど、こちらが学ばされるところもたくさんある」
「利用者にも外国人がいるので、訪問介護でも外国人スタッフは必要」
など、外国人スタッフに対する好評価も多く聞かれます。
スタッフや現場によりさまざまな意見がある現状、「外国人に訪問介護は可能か?」とひとくくりに考えるのではなく、個々の現場の状況を把握して課題を練っていくことが大切なのかもしれません。
<参考>
★外国人ヘルパーによる訪問介護の現状と今後の展望
https://www.jssw.jp/archives/event/conference/2012/60/abstract/pdf/60_300.pdf
★介護現場を担う外国人 10年目の現場から(NHKハートネット)
https://www.nhk.or.jp/heart-net/article/75/
★介護職の8割「外国人介護士を受け入れても、人材不足は解消しない」。(介護のお仕事研究所)
https://kaigo-shigoto.com/lab/archives/5137
キーワード:訪問介護、ヘルパー、外国人ヘルパー、介護スタッフ、外国人、介護の資格、介護福祉士、人材不足、定着、介護現場、待遇