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<アジア諸国レポート>
91歳を迎えた 在比レジェンド 岡 昭氏

邦字紙マニラ新聞の名物支局長

フィリピン在住61年、今も現役で在比日本人や日系人のために活動している岡 昭(おか あきら)氏については、これまで何度か本誌でも紹介しました。岡さんは、30歳の時に技術コンサルタントとしてフィリピンに来ました。その後、JETRO等の政府機関で働いたのち、日刊邦字紙・マニラ新聞(表題は「まにら新聞」)の編集に携わり、長く、同紙セブ支局長として健筆をふるってきた名物ジャーナリストです。この間、日系人会会長など要職も歴任し、今も同紙の顧問として活躍しています。
その岡さんが、今年2018年2月24日、91歳の誕生日を迎えました。3年前から右足を痛めて、変形性ひざ関節症とかで杖は手放せません。この日に合わせて1年振りにお会いした筆者の見た印象では、車の乗り降りや段差のあるところでは介助が必要です。しかし、記憶力や現在の問題点などについては、語り口こそゆっくりですが、驚くほど確かで率直です。在比ジャーナリストのレジェンドが、最近の現地事情などについて語ってくれました。


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生まれた年(1927年)のグラフ雑誌を手にする岡氏=セブ島で

日系人からドゥテルテ大統領まで

今年になって新たに、フィリピンやブラジルに住む日系4世も、制限付きながら日本での就労枠が拡がることになりました。これまで介護人材などについては、日本政府の受け入れ体制の不十分さなどから、ほとんど進まなかったという経緯があります。その一方で、岡さんらの働きかけで、それまで、なかなか認められなかった特別在留許可を一度に26名も認めさせたこともあります。
こうした紆余曲折も熟知しているだけに、このたびの日系4世の件について岡さんは「人手不足も背景にあるが、一歩前進だ。ただ、鳴り物でやったEPAの介護士のように、実際にはほとんど来日出来なかったといった轍は踏まないように進めてほしい」と言います。
また、日本人のルーツを持ちながらも、確たる証拠が得られず「就籍」という日本国籍の新たな取得が、なかなか認められないという現実についても言葉を継ぎます。「就籍のハードルが高すぎることが問題です。ただ就籍の取得それ自体がゴールではなく、日本で働けるようにならなければなりません」。
一方、日本で深刻な人手不足が続くなか、日本からフィリピンへの求人活動も活発化しています。これについては、「日本語のマナーや日本語教育も大きな課題です。教育を受けたくても、この為の授業料はおろか、生活費もままならないという人もたくさんいるのが、現実です。このサポートも一朝一夕では、とても追い付かないだけに大変です」と悩みを隠しません。


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汚職疑惑を追究していたラジオキャスターの殺害事件を報じるマニラ新聞=2018.3.14

 
さらに、最近のドゥテルテ大統領の活動についても話は及びます。
折しも、2月5日、マニラ新聞編集長の石山永一郎氏が同紙上で、報道の自由が脅かされていると懸念を表明しました。これについては少し説明が必要です。
フィリピンでは、一部の記者が大統領府での記者会見への出席を拒否された問題を端緒に、有力紙などに対するドゥテルテ政権の強権的運営への不安が広がっています。石山記者の論文はこうした傾向への警鐘にとどまらず、より深刻なものとして、主に地方都市などで、権力者に批判的な報道をしたジャーナリストへの殺害が相次いでいることへの、懸念を訴えたものです。
この石山論文についても、先輩ジャーナリストとしての見方を伺いました。
「石山編集長は元共同通信編集委員で、マニラ支局長を務めた立派なジャーナリストです。彼の懸念はもっともです。と同時にこの国の国民の多くは、多少きついくらいでないと不正や麻薬はなくならないと思っています。だから、様々な批判があっても、7割近い支持があるんです。まだまだ時間がかかりますね。」と、この国の現実を直視することも忘れません。


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左写真:セブ・マクタン島には遠浅のビーチがひろがっている
右写真:セブ島にはI.T.パークもある

 
セブ島は、空港やビーチの連なる支島・マクタン島とセブ本島とが、2本の橋で結ばれています。2本の橋の1本は老朽化しており、大型車は通れないこともあり、最近は交通渋滞が常態化しています。日本からの直行便も増え、新しい空港ターミナルビルの増設など観光客の受け入れは進んでいますが、道路などのインフラ整備は追い付いていないようです。
在島中、何度かタクシーを利用しましたが、彼らは申し合わせたかのように、警察官の給料がアップし、以前より不当な要求も減って、治安も良くなったといいます。その同じ口から、地元で混雑を意味する「トラフィック」という言葉を繰り返し、通常時のメーターの3倍近い料金を要求します。渋滞でなかなか進まない狭い車中での時間つぶしもあってか冗舌です。そして強権への批判など、どこ吹く風とばかり彼らの多くがドゥテルテ大統領を支持していると明言します。
「あなたの支持するドゥテルテ大統領のおひざ元・ダバオ市ではほとんどのタクシーがメーターの通りに走行するのに、セブでは3倍もふっかけるのか」と聞いても、ダバオとセブは別とばかり全く気にしない様子です。
これもフィリピン気質なのかもしれません。この辺りは、岡さんの言うように、まだまだ時間がかかりそうです。

 

著者・経歴
株式会社ハートシステム 代表取締役
研修セミナー講師・ジャーナリスト他
坂内 正